第74話:残り16日

 「1年をザックリ振り返る見た人もやる」のハッシュタグを見かけて、1月から今日までを振り返っていた。

 1月、死ぬと決めて、アルコールを大量摂取した。当時の記憶がぼんやりしているから詳細はあんまり覚えていないけれど、その様子をツイートしていたら心配した知り合いが通報してくれて、警察の人がうちに来た。Twitter社、命の危険が迫っていると分かったら意外とスピーディーに住所を開示するんだなと知った。

 2月、星野源が出した『創造』に衝撃を受けた。とんでもなく凄い曲を聴いてしまったと思った。同時に「この人の作る他の曲を聴き切るまで死ねない」とも思った。それくらい私にとって衝撃的な音楽だった。

 3月、新しい街に引っ越した。半同棲から一転して、一人で知らない街に来て孤独だった。4月も、寂しさとどうしようもなさでいっぱいで、泣かない日はなかった。

 5月に星野源の結婚が発表された。ご祝儀としてMUSICA、NYLON、シングル2パターンを予約した。

 6月から11月は多忙の極みな仕事、膠着状態なプライベートの話し合い、という思い出。秋は映画をたくさん観た。

 

 そして12月。まだ始まったばかりだけれど、今年1月に通報してくれた人と、生き延びてくれた自分に感謝したい。ぼろぼろの職歴で転職活動がまったく上手く行かず泣いたり臥せったりしていた私に、「世の中にはどれだけ経歴がぼろぼろでも、成果でぶん殴れば開く扉もあるらしいよ」と先に伝えられていたら、どんなに心穏やかだったことだろう。

 

 大学デビューのタイミングを逃して同じ学科に友達ができなかった私は、テストの過去問も先輩が去年書いたレポートも、休んだ日のノートも手に入れられない人間だった。もっと要領よく生きられる人間になりたかったと思いながらも、テスト期間やレポート期間は図書館やPC室に籠り、とにかく文献を読んで課題をこなして馬鹿真面目に勉強した。卒論の時期はゼミ生とPC室で顔を合わせることも増えたし、閉館まで分析ソフトをいじってるのはだいたいみんな同じゼミの人だったけど、それでもやっぱり心の中ではずっと一人だった。

 

 今の組織の採用試験で私は、webテストの成績が上位数%、かつ論理的思考力の項目が満点だったらしい。それが目に止まり、面接に呼んでみようという話になったのだとか。話してみても論理が破綻していないとのことで好印象を残し、採用が決定したそうだ。

 あの孤独な4年間があって、ピンチの2社目で書いたものを評価してくれた3社目の上司がいて、3社目でひいひい言いながらもやっていた仕事のおかげで力が伸びて、今の職場にたどり着いた。そして今の場所で働き出してからは、地獄だった1社目で聞き齧った知識や考え方も、思わぬ形で仕事に繋がり始めている。

 

 それぞれの時期で出来なかったことや果たせなかった約束、後悔はたくさんある。でも、一個ずつ馬鹿みたいに真面目に、その時できる最大限で真剣に取り組んできたおかげで、今年の初め、圧倒的不利な職歴のマイナスをひっくり返して仕事にありつけたのだ。同期のキラキラした経歴を知ると尚更、よくこの中に私が入り込む余地あったなとしみじみ思う。

 もちろん、私を見出し鍛えてくれた人たち、文字通り救ってくれた人たちの存在も大きい。でも、どれだけ死にたくなろうがどれだけ孤独だろうが、目の前のことに対する真面目さ、真摯さを手放さなかった私のことも、同じくらい賞賛に値すると思う。20代の私は、私が大事にしたい私の在り方を守ってくれた。「プリンセスプリキュアのような存在になりたい」「30歳までに定職に就ければいい」と腹を括った2016年の私にも、「プリキュアにはまあまあ近づいてるよ」って伝えたい。よくやった。本当にあなたはよくやった。

 

 経営層から、結婚や介護以外の理由でも異動チャンスがあると明言してもらえた。私が考えていることや意見も伝えて、聞く耳を持って貰えた。

 可能性がゼロじゃないならやれることはあるし、今もしゼロでも半年後には変わっているかもしれない。プリンセスプリキュアは仲間と一緒に走り出すことで夢の扉の鍵を開けた。今の私に同じ夢を持つ仲間はいないけど、数年後の私に「実力でぶん殴って鍵を壊したら一人でも扉を開けられたよ」って吉報を届けたい。誕生日まで残り2週間とちょっと、リラックスして、ほどほどに真面目にやっていこうと思います。おやすみなさい。