第63話:残り45日

 帰省した。ちゃんと帰ったのは2年半ぶりくらい。自然豊かでのんびりしていて、いい時間だった。

 でもそれと同じくらい、「閉じ込められている感」があって、それに気付いたら今過ごしている街に帰ってきてもその感覚が抜けなくて、今私は仕事終わりに、鬱々とした気持ちになっている。

 田舎に帰れば結婚は出来そうだ。でも結婚したからってなんなのだ。漫然と毎日を過ごして、生まれ育ちに囚われた暮らしをして、それのどこが幸せなのだ。親族の介護を見据えて帰って、じゃあ私は何のために生きてるんだ。文化文明の中心地に根を張るために生きてきたのに、何が楽しくてわざわざ田舎に帰らなきゃならないんだ。

 かと言って、高齢の親や相続問題をほったらかしておくのもばつが悪い。こういう時、一人っ子は不自由だ。兄弟姉妹がいれば役割分担が出来る。一人で全部背負わなきゃならないのは本当に勘弁してくれと思う。

 

 いつだって隣の芝生は青い。いくら自分の庭を耕し種を撒き実がなっても、欲しい実じゃなければあんまり嬉しくないのだ。それを「贅沢だ」と言う人とは、たぶん価値観が相容れない。

 自分にとって何が幸せで優先順位はどうつけるのか、全然分からなくなってしまった。こんなことなら帰らなければよかった。