第46話:残り124日

 今まで、多分物心ついてから今までずっと、何か不満があれば本人に言ってきたし、戦いをけしかける時も相手に直接ぶつかりに行くやり方しか出来なかった。でも、それでは不利になることもあると最近分かってきて、戦う時は戦い方を選ぶことが重要だ、とやっと理解してきている。

 だから、「東京に異動するにはどうしたらいいですか」と、人事に直接聞くのは辞めた。代わりに別の人を間に挟み、その人経由でやんわり聞いてもらうことにした。結婚や介護以外の理由でも、双方の組織で人員調整が付けば異動が出来ること、軽い試験というか、面接があることがわかった。少なくとも、目の前の仕事とそれに付随する自己研鑽を頑張ったら、帰る道が開けるかも知れない、と分かっただけでも大きな収穫だった。

 実は採用試験の面接時、県を跨いだ異動が可能かどうか質問している。こんなこと聞いたら落とされるかなと迷ったけれど、内定を貰った後、この街に飛び込むかどうかの決め手になるのはそこだったから、どうしても聞いておきたかった。回答は「希望しなければないから安心して欲しい。結婚や介護といったやむを得ない事情などでない限り、本人の意思に反する異動はない」というものだった。

 「この土地に縁もゆかりもない、年齢の割に転職回数の多い人間をよく採用したな、どこまで人手不足なんだ」と思ったけれど、もしかしたら採用側も、私がゆくゆくこの街を離れたいことを、薄々分かってて採用してるのかもしれない。入社後に聞いた話では、私の受けた採用試験の倍率は約30倍と、そこそこ高かったらしい。私に出来ること・希望する仕事内容と組織が欲しい人間、需要と供給がたまたま噛み合ったから、定着性はこの際無視してとにかくこいつを取ろう、みたいな感じだった可能性すらある。

 もしそうならば、お互い利用し利用される関係だ。使えるものは全部使って、ここにいるうちに戦闘力を鍛えさせてもらおうじゃないの。

 久しぶりにわくわくしています。待ってろ幸せな毎日。