第28話:残り154日

 「竜とそばかすの姫」の話をしたい。

 

 昨日の日記で書いた通り、私は細田守が好きじゃない。というより、細田守が脚本を書いた映画が好きじゃないのかもしれない。「サマーウォーズ」と「時をかける少女」は面白かったし、どっちかというと好き寄りだ。でも「おおかみこどもの雨と雪」、「バケモノの子」は好きじゃない。「ミライの未来」に至っては、星野源が出ているというのにちゃんと観たことがない。

 「じゃあなんでわざわざ観に行くの?」と言われそうだが、理由は単純で、なんとなく好かないクリエイターについて、作品を見ないで「嫌いだな」のままで居続けることはフェアじゃないと考えているからだ。自分が物を作る立場だったら、作品を見ずに「なんとなく嫌」で片づけられたら悲しい。人間、生きていれば変化していくし、映画みたいに巨大なチーム仕事が発生する場合は、座組みによって作品の持ち味も変わると思うのだ。私が見る側じゃなく作る側だったらきっと、制作物を世に出したら「私だって前の時とは違ってるのにー!観て聞いて読んでー!それから判断してー!」って思う。

 という理由で昨日、「竜とそばかすの姫」を観てきたのでその感想を書きたい。こういうのどういう風に書いたらいいか分からないので、構成も何もないけど、思いつくまま書いていこうと思う。ネタバレを大いに含むので、読みたくない方はここで離脱をお願いします。

 

 さて。思ったこと。

 

 音楽がいい。ベルの歌がとてもいい。「私に向けて歌っているみたい」とは感じないしけれど、素直に「上手いなあ」と思いながら観ていた。あと忍くんの演技。自然だなって思ってたら成田凌だった。

 「愛がなんだ」を観たときにも「成田凌すごい、自然過ぎて恐ろしいな。ここだけ現実世界みたい。とにかく成田凌怖い」って思った覚えがある。エンドロールで「うわ、また成田凌じゃん」ってなった。私はたぶん成田凌の演技が好きなんだと思う。

 あと、鈴が「6歳の時に忍君にプロポーズされた」という話をヒロちゃんにしたとき、ヒロちゃんが「そんな大昔のことを言われても」って答えるんだけど、なんかこれが、高校生の時間感覚だなって感じがしてリアルだと思った。大人になると11年前の話は「もうそんなに前なの!?」って驚くくらい、すごく近い場所にある記憶として残ってることが多い気がする。確かに11年前は大昔であるっちゃあるんだけど、でも「大昔」って言えるのがなんかこう、若い人の特権って思ったんだなあ……(全然説明できてない)。

 

 本題はここから。主に物語について書いていく。セリフはうろ覚えだけどご了承ください。

 

 そもそも、鈴が竜に興味を持って近づき、深入りしようとした動機は何なのか考えてみた。鈴はインターネットの悪意・誹謗中傷に晒されている竜と自分を重ねたんだと思う。だから、周りがどれだけ竜を悪く言おうと、それこそ親友のヒロちゃんでさえ竜を悪く言うのにも関わらず、「本当に悪い人なの?」と疑って確かめたくなったんじゃないだろうか。

 鈴のお母さんは土砂降りの中、中州に取り残された見ず知らずの子どもを助けようと川に入っていき死んでしまう。それがニュースになると、ネットではお母さんへの称賛(「勇敢な行いをした」とかだった気がする)だけでなく、「川遊びが辛気臭くなるからこういう事件はやめてほしい」「自分の子どもを置いて他人の子どもを助けて死ぬなんて無責任だ」みたいな言葉がうじゃうじゃ出てきた。鈴はそれを知っている。どうしてお母さんは自分を置いて死んじゃったんだろうという気持ちのところに、「お前のお母さんは悪物なんだ」と言われるようで辛かっただろう。お母さんへの称賛や鈴への慰めの言葉はネットにも確かにあったんだろうけれど、誹謗中傷のほうが格段に量が多くて、心地いい言葉は全部かき消されてしまった。

 Uでベルとして歌ってからは、今度は自分自身が攻撃の対象になった。ヒロちゃんに「どうしよう!めちゃくちゃ叩かれてるよ!」って言うシーンで「半分もアンチがいる!」みたいなことを言っていた記憶がある。これにヒロちゃんは「もう半分は称賛ってことじゃん」って返していた。鈴は自分にとって好ましい言葉と嫌な言葉が同じ量だけあったら、嫌な言葉のほうに意識がいっちゃう人なんだろうね。分かります。

 そんな鈴が、理由がよくわからないけどとにかく嫌われて攻撃されている竜と自分を重ねて見た可能性は大いにあると思う。幼少の頃、ネットの嫌なところを煮詰めたような誹謗中傷を受けた者として、鈴は「インターネットの空間は、批判の言葉が過剰に大きくなりやすく、肯定はそれにかき消される」ということを分かっていたはずだ。だから、こんなに大勢から忌み嫌われる竜が本当にそれだけの恨みを買う存在なのか確かめたくなった、というのが、竜に興味を持ったきっかけなのではないかと思う。

 

 だって、じゃないと鈴が竜に深入りする理由が説明付かないんだもの。さんざん美女と野獣やってるけど、あれは本家と違って恋に落ちている訳じゃないと思うのよ。合唱団のおばちゃん達に「好きな人でもできた?」ってからかわれてたけど、鈴が竜のことを恋愛として好きになる理由、なくないですか?少なくとも私は読み取れなかった。

 最後のほうで恵君から「大好き」って言われてたけど、恵君の「大好き」は恋愛感情じゃなくて、自分のために本当に助けに来てくれた存在、本当に守ろうとしてくれた存在への愛着の表現だと思うんですよね。いや、もしかしたら恋愛感情の可能性もゼロじゃないかもしれないけど、なんか腑に落ちない。でもなあ、竜とベルの間に恋愛感情が生まれていないとしたら、なんで美女と野獣を入れた?って疑問は残るけど……。いやでもないと思うな恋愛感情。この辺はよう分からんです。

 

 もう一つ。終盤、鈴が恵君たちを救うために、自分がベルだと証明するために自らアンベイルして歌うシーン。あそこで、お母さん中州の子どもを助けるために川に入りに行くシーンが挟まれたじゃない?あれなんでだろうって思ったけど、鈴はあの時、見ず知らずの子どもを助けに行こうとしたお母さんの心情を理解したんだろうね。

 鈴、もしかしたら心のどこかでお母さんのこと「なんで自分のことを置いて助けに行ったんだろう」「助けに行かなかったら死ななかったのに」って少し恨んでたかもしれないなと思っていて。でも、今鈴がやっていることってあの時のお母さんと同じで、全然知らない見ず知らずの人間に命の危機が迫っていて、助けなきゃって思いだけで、その後の自分への影響はあんまり考えずに行動している訳じゃないですか。「お母さんが助けに行かなかったらあの子が死んじゃうの」って言ってたお母さんの気持ちが分かって、わだかまりがなくなったから泣いてたんだと思う。よかったね鈴ちゃん。

 

 あと、明確に描いてほしかったなと思うのが恵君たちのその後。虐待されてる子どもに「僕は僕の戦いを頑張る」って言わせてその後を描かないの何?意地悪じゃない?物語本編で描けないならせめてエンドロールで静止画流すとかでいいからさあ。明確に彼らが助かった描写が欲しかったなー。だってあのまま家帰ったら絶対お父さんに酷いことされるでしょ。配信も切れてるから世間にその様子は知られないかもしれないし。ちゃんと保護されてると信じたいけれど、細田守は「おおかみこどもの雨と雪」でもそうだったように行政を信用してなさ過ぎる面があるから、その点ちょっとなあー、描いてほしかったなーと思う。

 話は逸れるけど、その点、新海誠は「天気の子」で、陽菜たちを保護しようとする大人たちが出てきて、法律や行政といったものの存在を見せていてよかったなと思う。「子どもだけで生活しているのはよくないから」みたいな理由で、行政の人が陽菜たちの家に訪問するシーンあったよね確か。ああいうシーンがあるから、新海誠作品の持ち味「リアルな背景描写」だけに頼らないでリアル感を出せてたんだと思うのよね。

 

 閑話休題

 

 東京に行くシーンについて、Twitterで「虐待する親のところに一人で鈴ちゃんを行かせるなよ」ってコメントを見たのだけど、それは本当に同意なんだけど、でもあそこで誰かが付いて行っちゃったらこの話が、鈴ちゃんの成長物語にならない気がするのよね。個人的には大人付いて行けよって思うけど、あそこは一人で行かないと、お母さんが一人で助けに行ったエピソードと対比にならないからしょうがなかったのかなとは思う。あんなに大勢の大人がいるんだから誰か一人でも一緒に行ってよって思うけど。

 

 主題は鈴の成長、過去の克服、前進の物語ってよくわかった。「Asはその人の隠れた能力を引き出す」という設定だから、ベルの状態では歌える→現実世界でも一人なら歌える→Uの中でも鈴として歌える→現実世界で鈴として歌える、って、段階を踏んで描かれていたの親切だよね。

 

 分からなかったのは、竜が嫌われている理由。「ファイトスタイルが最悪」「データが壊れるまで殴られる」って理由でそんなに嫌われるものなんでしょうか?

 ていうかそもそも、データが壊れるまで殴られる、ってどういうこと?Asが現実の身体と身体感覚を共有してるなら、「データが壊れるまで」ってそれ現実世界のオリジン死んでません……?大丈夫なの?Uは複数アカウントが作れないんだったら、アカウント復元も別アカウントでU使うのも出来ないし、どうなんだ?UがサマーウォーズのOZみたいに使われていたとしたら、アカウントないと生活で不便を被るからかなり迷惑な話だけど、そもそもUがどんなインターネット空間なのか分からないし、この変、分からないことだらけでございます。誰か仮説がある人、聞かせてほしい。

 あと、インターネット自警団にアンベイル出来るほどの力を与えている状態もよくわからん。ジャスティンにたくさんスポンサーが付いていたけど、なんで1アカウント追放のためにあんなにスポンサーが付くのか謎だった。ジャスティンはジャスティスが元だろうけど、やっぱりガストンに似せたのかな。

 

 ざくっとこんなもんです。観た人がいたら感想聞かせてください。