第35話:残り144日

 今日は耳栓して寝てみようと思う。驚愕の壁薄部屋に住んでいるので、隣の住人の会話が丸聞こえなのだ。引っ越し後、ご挨拶がてら「私の声とか生活音、うるさくないですか?」と聞いたことがあるけれど、こちらの音は全く聞こえていないらしい。どういう構造なんだろう。

 寝るときにうるさいのは本当に困るし煩わしい。引っ越しも考えたが、たったこれだけのためにお金と時間を使うのも嫌だ。まずは手持ちの耳栓に期待したい。

 英語と人体の勉強をしよう、と思って4ヶ月が経つ。いくら仕事が忙しくて、仕事場の人間にイライラして、毎日頑張っているとはいえ、欲を出せばもう少し勉強に時間を割きたい。楽しく出来るように工夫して、毎日1単語だけ進められるようにしたい。まずは明日からなんとかしよう。

 高校で勉強をしなかったこと、やり切った手答えが得られないまま卒業したことを、長らくコンプレックスに思っていた。数学は数列と三角関数を除いてさっぱり出来なかったし、化学、生物、地学は「なんでこんなにやらなきゃなんだ」と、在籍校のカリキュラムと志望校の入試形態を恨んだ。

 今から同じ内容を同じ方法で学んでも、心の穴は埋まらないだろうということも分かる。知識が付いても嬉しくないような気がする。気持ちが過去に向いている限り、前進してるように感じられないだろうし、いつまで経ってもマイナスをゼロに近づける努力にしか思えないのはモチベーションにも影響する。

 だから、「あのとき出来なかったことを出来るようにするため」ではなく、「今ここの時点から、生活を楽しくするため」という意識で学びたい。受験という締め切りが無いのだから、10年かけても20年かけてもいい。知識を身に付けて物事の見方が変わったら、どんな気持ちで生活出来るようになるのか、ちょっと試してみたい。幸福な瞬間が増えるのか、それとも退屈してしまうのか。所属コミュニティがどう変わるのか。大人になって学ぶことは、日本社会で、階層の移動にどう影響するのか。

 何からやろうかな。少し楽しみ。