第71話:残り20日

 葬式は会費制、焼香の代わりにひとりひとりにディプティックの焚き火のアロマキャンドルを点灯してもらって(帰りに一個ずつ持ち帰っていいよ)、最後は星野源の明るい曲で解散、などの理想があるので、演出指示書を作るまでは迂闊に死ねない気がしてきた。あの親のことだ、そんなはちゃめちゃな葬式をやってくれる訳はない。でも最後くらい好きにさせて欲しい。公正役場に遺言書届けて、2部コピーして1部はいつも使う鞄に、もう1部は部屋の分かるところに。意思は示したよという記録は作っておかないと、我慢して飲み込んだ者の存在は無かったことにされてしまうからね。圧力だけはかけておこうと思う。

 それから墓。死んでなお一人で田舎の寺に閉じ込められるなんてぜーっっっっったいに嫌だし屈辱的過ぎるから、東京で一人分の永代供養墓を買おう。日当たりが良くて木がたくさんある場所がいい。

 

 朝起きても全然身体が動かなくて、なんとか恐怖心や嫌な気持ちを見ないようにするために、ビールでアルコールを摂取してから出勤しようとした。でも無理だった。誰かとの打ち合わせがある日に仕事を休むこと、今まで絶対にしなかったのに。朝から晩までずっと泣いて過ごした。ひとりぼっちなのも、友人男性の心ない言葉も、昨日、元婚約者に人の気持ちを再度踏み躙られてぷっつり糸が切れたのも、勢いよく死ねないのも、周りがみんな前向きに生活しているのも、女の子の知り合いが結婚していくのも、変わり者扱いされた記憶も、誰かが誰かを変わり者扱いする言動も、全部全部悲しかった。

 

 感情なんて邪魔なだけなんだから、なければいいのに。