第3話:残り179日

 生きていると色んな感情に晒される。自分がその感情の直接の受け手ではなくとも、誰かの感情が誰かに向けられているのを感じるだけでも結構疲れる。

 人間ってしょうもない生き物だなと思う。誰かに勝手に期待して、怒って、文句を言って。職場じゃなくて家庭でも、きっと同じようなすれ違いがどこでも起きているんだろう。大人なんだから職場でそういうことするの辞めなよ、と傍目で見てはうんざりする私も、やっぱり勝手に人間に期待しているしょうもない生き物だと思う。

 前の業界は頭脳労働だったので負荷はあったし、自分の出来損ないさに嫌気と罪悪感を感じていたけれど、周りの人間には恵まれていた。今の職場と比べて、理知的で、でもどこかに強烈な癖がある人がかなり多かった。ああいう人達と知り合い、たまに連絡を取り合える関係になれたのは、私の人生で大きな財産だ。

 大好きな友達も知り合いもいて、何かあれば話を聞いてくれるし私も聞くし、一緒に遊べる関係の人間がいるのに、毎日寂しいのは何故なんだろうか。周りはどんどん結婚して、子供が出来て、寂しさとは縁遠くなっていく。羨ましい。私もみんなと同じものが欲しい。一人で生活するモチベーションが湧かない。一緒に暮らす他人の目があれば辛うじて生きていけそうな気がする。でも周りはそんな理由で結婚なんかしていなさそうだ。私もみんなと同じものが欲しい。

 

 明日は、曲者の先生が委員長を務めるミーティングがある。場の空気が悪くなるんだろうなと思うだけで憂鬱だ。ああ、この街この職場から離れたい。誰か好きな人を見つけて、好きになってもらって、その人の街に引っ越したい。今までの辛い記憶全部消して、幸せな思い出しかない状態に作り変えて生き続けてみたい。毎日、死ぬか生きるか決めて暮らさなくて済むくらい、楽しいこと嬉しいこと、満ち足りたことだらけの人生にしたい。

 これでも毎日働いているのだから偉い。結婚していく友人達、出産する友人達を祝福して偉い。毎日生きてて本当に偉い。でも私は別に偉くなりたい訳じゃないんだよな。どうしたものかね。